2014/12
木曽の電源開発君川 治


【産業遺産探訪  5】


旧八百津発電所と放水口発電所


読書(よみかき)ダム


柿其水路橋


桃介記念館


紅葉の恵那峡・大井ダム


大井発電所
 経済産業省が認定している文化遺産分類の一つ「近代化産業遺産群」を訪ねる旅第二弾は木曽川である。すでに一度紹介しているが、再掲させていただくことにする。

八百津発電所
 木曽川に最初にできた発電所は明治44年に完成した名古屋電灯(株)旧八百津発電所(出力7,500kW)であった。この発電所は発電に使用した放水を再利用する放水口発電所(1,200kW)を併設する、珍しい発電所である。現在は新八百津発電所ができて旧八百津発電所は国重要文化財となり、そのまま八百津発電所資料館として保存されている。資料館には当時の水車や発電機、配電線などが当時のまま残され、珍しい放水口発電所も見ることができる。
 中山道を木曽川沿いに歩くと、このほかにも川沿いに瀟洒な建物が見られる。近くの山の斜面に導水管を伴った発電所の建物で、その多くは国の重要文化財や近代化産業遺産に指定されている。これらを建設したのが電力王と異名をとる福沢桃介である。


木曽川の発電所
 木曽川の寝覚ノ床で知られる上松の少し南、須原発電所の隣に関西電力の「木曽川電力資料館」がある。普段は無人の資料館のため、見学希望の申し込みをすると態々説明の方が上松から来てくれた。木曽川には現在32ヶ所の発電所があり、この資料館は昭和61年に1河川で100万kWの発電を達成したのを記念して創ったとそうだ。1階展示室は水力発電所の水車や発電機関係の機器が展示説明してある。2階は福沢桃介など木曽川開発に関わった人達の歴史的な展示説明である。
 資料館の裏山に桃介公園があり、100万kW達成記念碑と福沢桃介の胸像がある。桃介の写真や胸像はざっくばらんな風体のものが多いが、この胸像はDr桃介であるから珍しい。
 福沢桃介が最初に建設したのは大正8年に竣工した賤母(しずも)発電所で16,300kW、次が大正10年に完成した大桑発電所(12,100kW)、3番目が資料館のある須原発電所(10,000kW)である。
 福沢桃介は続いて桃山発電所(24,600kW)、読書発電所(42,100kW)、大井発電所(42,900kW)を建設し、大正15年に竣工した落合発電所(14,700kW)まで、7年間に7か所の発電所を稼働させている。これら発電所の建物はどの建屋も個性ある建築であるから楽しい。    
 木曽川は木曾御嶽山や木曾駒ケ岳から流れ出る川の水を集めた急流で、川の左岸には中山道が続き街道沿いの宿場町がある。したがって発電所は対岸(右岸)に建設されることが多く、工事は木曽川を渡る橋を造ることからはじまる。
 南木曽の読書発電所の建設資材を運搬するために造られた桃介橋は、長さ247m、主塔3基の木造の吊り橋で、修復されているとはいえ堂々たる趣である。読書発電所は読書ダムから導水管で水を引いているが、柿其川を渡る部分は全長142mの鉄筋コンクリート製の水路橋となっている。桃介橋のたもとに桃介の別荘があり、現在は福沢桃介記念館である。
 発電所本館、水槽・水圧鉄管、柿其水路橋、桃介橋が国の重要文化財に指定されている。
                       

ダムと観光
 秋の紅葉の季節には観光客で賑わう恵那峡の、遊覧船が走る湖水は大井発電所の為に作られた大井ダムである。中央線の恵那駅付近は往時中山道の大井宿であり、この名が付いたものと思う。
 大井発電所は桃介が手がけた6番目の発電所で、我が国最初のダム式発電所である。ダム堰堤の長さは276m、高さ53mであり、木曽川の水流を堰きとめる難工事であった。工事途中に事故が発生し、更には関東大震災が起こり建設資金不足に陥るなど、困難を極めたと言われている。大同電力社長であった福沢桃介はこの工事現場にしばしば足を運び、現場の様子を視察すると共に担当者を励ましたという。
 堰堤の上から木曽川を眺めると、このダム工事のスケールの大きさが実感として分かる。今から80年以上前の土木技術も結構進んでいたものだと感心した。
 福沢桃介は技術者ではなく、時代の風を鋭く読むベンチャー経営者であった。木曽川を流れる水は「熱や光のエネルギー」に変えられる無尽蔵の資源と目をつけた。「水燃而火(ミズモエシコウシテヒ)」「流水有方能出世(リュウスイホウアリヨクヨニイズル)」などの碑がある。
 大正時代にこれだけの工事を遂行しているのに、「伊達男福沢桃介」が目立ちすぎ技術者の働きが見えないのが寂しい。「木曽川発電所を拓いた技術者の記録」を残したいものである。


君川 治
1937年生まれ。2003年に電機会社サラリーマンを卒業。技術士(電気・電子部門)




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